『ノートルダムの鐘』と主題歌「Someday」の考察 その2

※本文はディズニー映画『ノートルダムの鐘』、及び主題歌「Someday(サムデイ)」についての考察です。
ストーリーの詳細に触れているので、まだ映画を見ていない方はご注意ください。
また、一番下にあるMVと歌詞を見てから記事を読まれると、よりお楽しみいただけます。

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1、「Someday」MVの世界観

前回に引き続き「Someday」について、今回はMVに込められたメッセージを読み取っていこうと思います。

歌っているのは、アメリカのコーラス・グループ、All-4-One

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ちょっと細かい話になりますが、今回のMV解説は各メンバーに触れる必要があるので、最初に4人それぞれの名前をご紹介したいと思います。

サングラスをかけているのがジェイミー

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赤い服を着ているのがデリアス

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黒い服を着ているのがアルフレッド

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グレーの服がトニーです。

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特にサングラスのジェイミーと赤い服のデリアスは、この後何度も出てきます^ ^

まずこのMVをパッと見たときに思うのは、何て暗い世界!ということではないでしょうか。

理想の世界を歌う曲にも関わらず暗い色調であることは、それ自体が「理想の世界の到来を無邪気に信じることはできない」という表現でもあるように思います。

そしてその中で、最初と最後の一瞬だけ空が青い。これは現実世界を表していて、次にくる灰色の空は、精神世界なのではないでしょうか。

空が灰色になり雲が勢いよく流れだすと、デリアスは驚きと不安が混じったような顔で空を見上げ、リードを歌うジェイミー以外の3人は、高いビルと空の様子に喘いでいるようにも見えます。
(ジェイミーが空の変化に驚いていないところを見ると、この精神世界はジェイミーのものなのかもしれません)

暗い色調の中、恐ろしげな空の下で静かに理想の世界を語りだすことが、このMVの世界観です。

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2、4人の役割

実はAll-4-Oneの4人には、それぞれ役割があります。

まず赤い服を着ているデリアス。彼は希望の象徴です。
暗い世界に皆が喘いでいる中、唯一笑顔を見せていることからも、デリアスに託されている希望(=明るいもの)を感じ取ることができます。

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それと対になっているのが、サングラスをして眉間に皺を寄せた厳しい表情の、もう一人のリード・シンガー、ジェイミー。
彼は絶望の象徴です。目を全て覆うほどのサングラスは、光(=希望)を見ることができないという表現だと思います。

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アルフレッドとトニーは、その中間の一般的な人々ということでしょう。

さらに灰色のビルと空に囲まれて、他の3人もモノトーンの服の中、デリアスだけが赤い服を着ていることにも注目です。
この歌詞で出てくる「赤」は「太陽」で、その色を着ているデリアスには、この暗い色彩の世界に色と光を与えてくれるという希望が託されているんだと思います。

それは映画本編の下記一連のシーンにも通じるメッセージですが、その詳細は次回書きたいと思います^ ^

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そして赤い色をしたものが、このMVにもう一つあります。
それは左側のビルの下部にあるペイントです。

赤い色は希望のはずなのに、ひび割れてかすれています。これは何故でしょうか?

私は、はっきりと希望を持つことはできない。けれども根底にある希望を打ち消すこともやはりできない、という表現だと考えています。

祈りの対象を月にしたのも、素晴しい世界の訪れを疑いつつも、一筋の光を頼りにその到来を願うという、捨てきれない希望を表していましたが、このペイントにもそれと同じメッセージがあるのではないでしょうか。

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3、エスメラルダ・バージョンとAll-4-Oneバージョンの違い

この「Someday」はもともと、エスメラルダがノートルダム大聖堂内で神に祈りを捧げる「ゴッド・ヘルプ」のシーンで使用される予定だったようです。

開始55秒あたりから、エスメラルダ・バージョンの「Someday」が始まります。

一番の特徴は、最後に「信じているわ 変わる日が来ると(Change will come)」の一節があることです。

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最初のバージョンでは、明確に希望を持った歌詞だったんですね。

ところが完成版では、同じように暗く希望が見えない世界観にも関わらず、この一節は削除されています。
代わりに、「どんなに辛い日々でも 良くなるようにと願う祈りは 私たち皆が確かに分かちあえること」の部分が付け加えられています。

変化が訪れるという明確な希望は無くなっていますが、「皆が同じように良くなることを願っている」という希望の種が、確かに希望に感じられます
そしてそれは、デリアスの歌唱によるところが大きいのではないでしょうか。

あのパワフルな歌声に否応なく勇気づけられ、人間の声に希望を感じ、ひいては人間への希望を断つことはできない気持ちを自分の中に見つける―。
デリアスの歌声を聞いて、そんなことを思わずにはいられません。

4、込められた希望

この「Someday」は、暗い世界観が特徴です。
でもよくよく見ていくと、あちこちに希望が散りばめられていることがおわかりいただけたんじゃないでしょうか。

そのどれもが決してわかりやすくなく控え目に描かれていますが、それもまたきっと、『ノートルダムの鐘』の世界。

そこに「素晴しい世界の訪れを疑いつつも、一筋の光を頼りにその到来を願う」というこの映画や曲に通底するメッセージを感じますし、だからこそ、この映画はこんなにも響くのでしょう。

私がこのMVで特に好きなのは、最後に全員が去っていくシーンで、アルフレッドがジェイミーの肩を抱くところ

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希望の象徴のデリアスではなく、普通の人のアルフレッドが絶望しているジェイミーに手を差し伸べることに、何とも言えない深い希望を感じるんですよね。。

アルフレッドが肩を抱くと灰色の空が明るい青空に変わるのも、また味わい深いです。

5、「Someday」はAll-4-Oneが適任

しかしこう見ていくと、この「Someday」を歌うのにAll-4-One以上の適任者はいないのではないでしょうか。

まず第一に、彼らが祈りを捧げる歌にピッタリな、美しいハーモニーを奏でるコーラス・グループだということ。

そして第二に、人種混合のグループだということ。

第三に、それぞれ違う個性を持つ魅力的な二人のリード・シンガーがいること。
最初は絶望していたジェイミーが、最後にはデリアスに引っ張られて理想の世界を熱唱するというストーリは、この二人だからこそできたことだと思います。
ここは本当、感動的です…。

あーしかし、デリアスに希望を象徴させることを考えついた人は、やっぱりデリアスの歌声に希望を見たのでしょうか。私のように。
そう思うと、その人にもの凄く親近感を覚えるんですよね。

All-4-Oneをこの曲に抜擢したことをどう思っているのか、いつか聞いてみたいものです^ ^

この時期のディズニー映画のエンディングは、『アラジン』や『美女と野獣』然り、劇中歌を名のあるシンガーが歌っているものですが、『ノートルダムの鐘』だけは全くのオリジナル・ソングです。

それだけ製作者の「Someday」に対する思いが強かったということなんでしょうか。
こんなにいろんな感情や思いが詰まった美しい曲って、なかなか無いですしね。

次回はいよいよまとめとして、映画本編から読み取ったものを紹介し、最終的なこの映画のテーマを探っていきたいと思います。

(これは2010年2月に公開した記事を、加筆修正したものです)

「Someday」

Someday
When we are wiser
When the world’s older
When we have learned
I pray
Someday we may yet live
To live and let live

Someday
Life will be fairer
Need will be rarer
And greed will not pay
Godspeed
This bright millennium
On its way
Let it come
Someday

Someday
Our fight will be won then
We’ll stand in the sun then
That bright afternoon
‘Till then
On days when the sun is gone
We’ll hang on
Wish upon the moon

There are some days dark and bitter
Seems we haven’t got a prayer
But a prayer for something better
Is the one thing we all share

Someday
When we are wiser
When the world’s older
When we have learned
I pray
Someday we may yet live
To live and let live

Someday
Life will be fairer
Need will be rarer
And greed will not pay
Godspeed
This bright millennium
Let it come
Wish upon the moon

One day Someday

Soon

いつの日か
人は賢くなり
世界は経験を重ね
皆が思慮深くなる
私は祈る
お互いに尊重し合う
まだ私たちの生きぬ「いつか」が訪れることを

いつの日か
暮らしは公平になり
世の中は満ち足りて
人は欲望に振り回されなくなる
どうか今 世界が
そんな素晴らしい時代へと向かい
いつの日か
私たちのもとに
訪れますように

いつの日か
この闘いは終わりを告げ
私たちは太陽のもとに 誇らかに立つ
輝く陽の光を 一身に浴びて
そのときまで
陽の照らぬ日々の中でも
耐え抜こう
夜空の月に 願いをかけて

時には 暗くて辛い日々もある
祈りの消え去ったような日々が
それでも 良くなるようにと願う祈りは
私たち皆が 確かに分かち合えること

いつの日か
人は賢くなり
世界は経験を重ね
皆が思慮深くなる
私は祈る
お互いに尊重し合う
まだ私たちの生きぬ「いつか」が訪れることを

いつの日か
暮らしは公平になり
世の中は満ち足りて
人は欲望に振り回されなくなる
世界が 今
そんな素晴らしい時代へと向かい
私たちのもとに訪れるよう
夜空の月に 願いをかける

いつか

遠くない日に

(私訳)

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